「落葉」上田敏ヴェルレーヌ「秋の歌」訳詩落葉上田敏 『海潮音』より 秋の日の ヰ゛オロンの ためいきの ひたぶるに 身にしみて うら悲し。 鐘のおとに 胸ふたぎ 色かへて 涙ぐむ 過ぎし日の おもひでや。 げにわれは うらぶれて ここかしこ さだめなく とび散らふ 落葉かな。 秋の歌 ポ-ル・ヴェルレーヌ(堀口大學訳) 秋風の ヴィオロンの 節(ふし)ながき啜泣(すすりなき) もの憂き哀しみに わが魂を 痛ましむ。 時の鐘 鳴りも出づれば せつなくも胸せまり 思ひぞ出づる 来(こ)し方に 涙は湧く。 落葉ならね 身をば遣(や)る われも、 かなたこなた 吹きまくれ 逆風(さかかぜ)よ。 秋の唄 ポ-ル・ヴェルレーヌ(金子光晴訳) 秋のヴィオロンが いつまでも すすりあげてる 身のおきどころのない さびしい僕には、 ひしひしこたえるよ。 鐘が鳴っている 息も止まる程はっとして、 顔蒼ざめて、 僕は、おもいだす むかしの日のこと。 すると止途(とめど)もない涙だ。 つらい風が 僕をさらって、 落葉を追っかけるように、 あっちへ、 こっちへ、 翻弄するがままなのだ。 秋の歌 ポ-ル・ヴェルレーヌ(窪田般彌訳) 秋風の ヴァイオリンの ながいすすり泣き 単調な もの悲しさで、 わたしの心を傷つける。 時の鐘鳴りひびけば 息つまり 青ざめながら すぎた日々を 思い出す そして、眼には涙。 いじわるな 風に吹かれて わたしは飛び舞う あちらこちらに 枯れはてた 落葉のように。 http://marieantoinette.himegimi.jp/book-automne.htm ヴェルレーヌの「秋の歌(落葉)(Chanson d'automne)」は1866年に出版されたヴェルレーヌの処女詩集『サチュルニアン詩集(Poèmes saturniens)』に所収された作品で、ヴェルレーヌが20歳の時に書いた詩です。 この詩は日本では、上田敏の翻訳詩集『海潮音』(1905)に所収された名訳「落葉」で、広く知られるようになりました。 “ヴイオロン”はフランス語のヴァイオリンのことですが、上田敏の訳があまりに知れ渡っているので、“ヴィオロン”とそのまま訳される方が多いようです。 翻訳詩の出だしは、上田氏が“秋の日の”、堀口氏と窪田氏がが“秋風の”と訳しています。 堀口氏訳の『ヴェルレーヌ詩集』(白凰社)の、堀口氏の鑑賞ノートによると、原作では“秋のヴィオロン”となっていて、日も風も入っていないので、以前は原作通り“秋のヴィオロン”と訳されていたそうです。けれどある日、このヴィオロンは秋風の音だと気付き、風の一字を加え、そうすることによって、最後の連の「逆風(さかかぜ)」との繋がりも妥当性を増すようになったと書かれています。 ジャンル別一覧
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